2020年11月06日

獲得免疫の本命、リンパ球——第1章 免疫、免疫、免疫、その謎は闇の中

 免疫細胞の主役は、白血球の中の「リンパ球」と呼ばれるものです。コロナウイルスを退治するのは、リンパ球の役目です。すでに細菌やウイルスに感染して抗体が体内にあれば、獲得免疫が発動し、抗体がなければ、樹状細胞やマクロファージによって抗原提示によって、新しい抗体が生み出されます。抗体がない場合は、抗体が生み出されるスピードと感染が拡大するスピードによって発症の症状が変わることになります。


 白血球の中でもっとも華々しい役目を担っているのが、リンパ球と呼ばれる細胞です。細菌だけでなくウイルスにも対応し、獲得した免疫情報を保存して、効率的な免疫システムを構築します。リンパ球は血管内において、白血球の20〜40%を占めます。リンパ球は大きく分類すると次の三つになります。

T細胞
B細胞
NK細胞

 T細胞のTは胸腺(thymus)に由来します。骨髄にある造血幹細胞が胸腺に移動してT細胞として成熟して血管内に放出されます。血管内にあるリンパ球の70〜80%程度がT細胞です。T細胞は獲得免疫のハブとも言える機能を持っています。いくつも種類がありますが、知っておきたいものに

ヘルパーT細胞
キラーT細胞
制御性T細胞

があります。ヘルパーT細胞は、いままで知られていなかった新しい細菌やウイルスなどが体内に侵入した時に作動します。
 
 未知の侵入者を知らせるのは樹状細胞やマクロファージなどの役目です。これを抗原提示と呼びます。外敵の特徴をヘルパーT細胞が受け取ると新しい侵入者を排斥すべく、同じリンパ球であるB細胞に抗体を生成するように命令を行います。そして同じT細胞であるキラーT細胞に、侵入者によって汚染された感染細胞を傷害するように命じます。キラーT細胞は汚染された細胞を自死(アポトーシス)に追い込み破滅させます。破壊された汚染細胞はマクロファージによって食われて掃除されることになります。
 
 ヘルパーT細胞から新種の外敵の情報を得たB細胞は、その情報を元に抗体を産出します。抗体というのは、外敵の特徴を捉えて、その外敵を見つけた時、外敵である細菌やウイルスに取り付くタンパク質です。
 
 B細胞は骨髄で作られた後、脾臓やリンパ節に移動してヘルパーT細胞からの指示を待ちます。B細胞の語源は鳥類ではB細胞がファブリキウス囊(bursa of Fabricius)という器官にあるためB細胞と呼ばれています。ファブリキウス囊は人間などの哺乳類で言えば、骨髄にあたります。
 
 抗原提示されたヘルパーT細胞がその情報をどのようにして、脾臓やリンパ節にB細胞に伝達するのかはよくわかりません。その人が持つ抗体の情報ごとにB細胞が存在し、新しい抗原が提示されると、無垢のB細胞がその情報を受け取り、そのB細胞が抗原の情報を記憶することになります。
 
 制御性T細胞は、自己免疫を抑制するT細胞です。TregやTレグ細胞とも呼ばれます。制御性T細胞が働かないと、自己免疫疾患が発生すると言われていますが、詳しいことはあまりわかっていません。正しく作用していれば、アレルギー疾患や関節リウマチは治るとも言われています。エピジェネティクス(後成遺伝学)のスイッチが関与しているとも、腸内細菌が放出するタンパク質が関わっているとも言われています。
 
 ついでながら発見された当初、制御性T細胞は「悪玉T細胞」と呼ばれていました。免疫を抑制するためです。
 
 T細胞にはもう一つ、NK細胞という免疫細胞があります。「NK」とはナチュラル・キラーの略です。キラーT細胞はヘルパーT細胞の指示によって、特定の抗原に関わる細胞を破壊しますが、NK細胞はそれとは関係なく、体内にある異常な細胞を探してこれを殺します。
 
 細菌やウイルスの種類に関係なく、挙動のおかしい細胞があると攻撃するのです。感染細胞だけでなく、癌細胞も見つけるとこれを攻撃します。自然発生する癌細胞をしらみつぶしに見つけて退治するのはNK細胞の役目です。
 
 NK細胞が常時パトロールする警察であれば、キラーT細胞は特別なミッションを持った軍隊と言えるかもしれません。細胞がウイルス感染すると、感染細胞から放出されるインターフェロンを感知して感染細胞を破壊します。
 
 獲得免疫が形成される仕組みはこんな流れになります。マクロファージや樹状細胞などから抗原が提示されると、ヘルパーT細胞がこれをB細胞に伝達することから始まります。脾臓にあるB細胞(ナイーブB細胞——抗原情報を持たないB細胞)はまず抗体である免疫グロブリンM(IgM)を生成します。免疫グロブリンMは救急措置的な抗体で、数日して大量の免疫グロブリンGが産出されます。抗体は細菌やウイルスの断片情報を手掛かりに、ターゲットに食らいつきます。
 
 次に抗体が結合された細菌やウイルスがあると、血中にある補体と呼ばれるタンパク質が活性化しさらにターゲットに取り付きます。これによってマクロファージは抗体や補体を目印にして、マクロファージや好中球などの食細胞が細菌やウイルスを捕食していきます。補体が抗原に取り付くことを「オプソニン化」と呼びます。
 
 一度作られた抗体情報はB細胞から、メモリーT細胞に引き継がれます。メモリーT細胞はリンパ節などに常駐します。同じ細菌やウイルスや侵入すると、リンパ節にいるメモリーT細胞が起き出して、メモリーB細胞に指示して、すぐさま免疫グロブリンGが生成されるのです。そして抗体を放って、細菌やウイルスの増殖を防ぎます。これが獲得免疫といわれるものです。
 
 獲得免疫が生み出されるまでの免疫の流れを自然免疫と呼んでいます。
 
 細菌はともかく、ウイルスは遺伝子が変異しやすく、抗体の持つウイルスの断片(抗原)が変わってしまうことがよくあります。そのため獲得した免疫では抗原を認知できないことがあります。その場合は抗原提示から始めなければならず、免疫が働くまでに時間がかかってしまうのです。



posted by 上高地 仁 at 23:19| Comment(0) | コロナとネアンデルタール人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。