まずは序章です。ここでは、ネアンデルタール人の遺伝子が怪しいというテーマでトピックを立てました。ネアンデルタール人の遺伝子が多い日本人は、コロナに感染しにくいという趣旨だったのですが、書いているときに、ご本家のスバンテ・ペーボ氏から重症化は原因はネアンデルタール人の遺伝子だという研究が発表されて、驚いたことを覚えています。
ネアンデルタール人は人類の中でもっとも最近まで存在していた化石人類です。「ホモ・ネアンデルターレンシス」といいます。約40万年前に出現したと言われています。現在の人類はホモ・サピエンスしか存在しませんが、約4万年前に絶滅したとされていて、ホモ・サピエンスと共存していました。
ホモ・サピエンスは約20万年前にアフリカで生まれ、その後世界に広がっていきました。以前はホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスは混血しなかったと言われていましたが、ヒトゲノムの解析が進むにつれて、ホモ・サピエンスのヒトゲノムに数パーセントですが、ホモ・ネアンデルターレンシスの遺伝子が含まれていることが明らかになりました。
ネアンデルタール人の遺伝子はすでに失われています。主に中東からヨーロッパにかけて遺跡と人骨が見つかっていて、これらの遺跡の骨からネアンデルタール人の遺伝子を集めて、ネアンデルタール人の遺伝子が同定されました。遺伝子を解析したのは、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボでした。解析には14年かかったといいます。それらの骨のDNAとホモ・サピエンスのDNAを比較すると、ホモ・サピエンスの遺伝子にネアンデルタール人特有の遺伝子が見つかったのです。
といっても、数万年前の人骨から遺伝子を復元するのは簡単なことではありません。考古学界では疑問視する声も少なくありませんが、現在はホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスは混血説は世間には受け入れられています。
遺伝子の解析では奇妙なことがありました。それはネアンデルタール人の遺伝子を取り込んだ割合が地域によって違っていることでした。アフリカのホモ・サピエンスにはほとんどなく、ヨーロッパやアジアのホモ・サピエンスは数パーセントの割合でネアンデルタール人の遺伝子を持っていました。さらに、ヨーロッパの人類より、アジアの人類の方がその割合が高かったのです。
現在の学説では、ホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスは混血は中東あたりで起こったのではないかと言われています。それは中東のイスラエルにホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスが住んでいたという洞窟がわずか数百メートルの近さで共存しているからです。
そのためアフリカから北上し、中東からさらに北に向かった人類はネアンデルタール人の遺伝子を多く持っていると考えられています。現在の研究ではアフリカにとどまった人類にもネアンデルタール人の遺伝子が含まれていますが、中東やヨーロッパからアフリカに戻った人類がいて混血したと考えられています。
NHKスペシャルの『人類誕生 未来編』ではマックス・プランク進化人類学研究所の解析結果が紹介されています。そこではネアンデルタール人の遺伝子は、ホモ・サピエンスに受け継がれ、
ヨーロッパ 1.8〜2.4%
アジア 2.3〜2.6%
アフリカ(サハラ以南) 0%
となっています。
ホモ・サピエンスがネアンデルタール人から受け継いだものに次のようなものがあります。
ウイルスの対する免疫遺伝子
高緯度適応遺伝子(白い肌)
白い肌の遺伝子はネアンデルタール人がもともと寒いヨーロッパに暮らしていたことに由来するものです。ウイルスの対する免疫遺伝子はHLA免疫遺伝子のことです。
HLA免疫遺伝子はヒト白血球抗原と呼ばれます。赤血球にはABOという血液型(ABO以外にもたくさんの型があります)がありますが、白血球にある血液型がHLAです。両親から受け継ぐ第6染色体の短腕にありますが、その種類は数万通りあると言われています。ネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子の主なものは
HLA-B*73
と呼ばれるものですが、この遺伝子とコロナウイルスとの関係はもちろん不明です。
ただ異なる人類同士の交配では、ネアンデルタール人だけでなく、デニソワ人の遺伝子も受け継いでいます。デニソワ人はネアンデルタール人と同じくらいホモ・サピエンスに近い人類で、64万年前にネアンデルタール人の祖先から分岐したと言われています。
ロシアで発見された10代の少女はデニソワ人とネアンデルタール人の交配によって生まれたとされています。デニソワ人とホモ・サピエンスが直接交配したのか、両者が交配した末裔とホモ・サピエンスが交配したのかはわかりません。しかしアジアでは最大でデニソワ人のDNAの6%がホモ・サピエンスに受け継がれていると言われています。
なお、これらの絶滅した人類の遺伝子を、ヨーロッパやアジアのホモ・サピエンス全員が持っているわけではありません。ヨーロッパ人やアジア人でもまったく持っていない人もいますし、持っていても遺伝子の一部分である場合もあります。
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