2020年11月01日

人種によって異なるコロナウイルスの死亡率—序章 コロナウイルスの鍵はネアンデルタール人にある!?

 序章の二つ目のトピックは、死亡率と人種の関係です。もっとも興味深かったのは、ニューヨークの黒人とラティーノの死亡率が極めて高いという結果でした。この原因はスバンテ・ペーボ氏の研究では解明できない現象です。実はアメリカだけでなく、イギリスでも黒人の死亡率が高いのです。はたしてこの原因はいかに?


 コロナウイルスのパンデミックが誰の目にも明らかになったのは、2020年2月あたりからです。半年後、最大の死者を出したのは、アメリカ合衆国でした。武漢でコロナウイルスが広がっていた2020年1月、日本は対岸の火事のように事態を見守るだけでした。武漢からの渡航制限も行なっていませんでした。日本政府が湖北省からの渡航拒否を行ったのは、1月31日です。WHOがコロナウイルスの緊急事態宣言を行ったのが、1月30日ですから、日和見を決めすぎと批判されても仕方がありません。
 
 当時アメリカの関係者は、日本の鈍重な対応を厳しく批判していました。しかしコロナウイルスは中国からアメリカに渡るのではなく、病原性を高めて瞬く間にヨーロッパに蔓延しました。イタリア、スペインから、パリ、ロンドンなどに広がり、アメリカに手を打つ隙を与えず、ニューヨークに上陸しました。西海岸に視線を向けていると、足元をすくわれてしまったのです。ニューヨークは地獄と化しました。
 
 アメリカの死者数は2020年8月の時点で約17万人です。アメリカの人口はおよそ3億2800万人です。100万人あたりに換算すると、518人程度となります。しかしアメリカは広いので、国単位で計算しても意味はありません。最初に感染者が発見されたニューヨークで見てみましょう。
 
 コロナウイルスを統計的に判断するためのもっとも確実な指標は死亡者数です。それ以外はほとんど統計的にはあてになりません。あと統計の数値として有効なのは、重症者数ですが、こちらも重症者の定義を明確にしなければ統計としては使い物になりません。
 
 ニューヨーク市の2020年8月末の死亡者数は約23721人です。ニューヨーク州の人口はおよそ830万人です。人口100万人当たりの死者数はなんと
 
2965人
 
です。この数値はニューヨーク市民の350人に一人がコロナウイルスで死んだことを示しています。350人に一人がコロナウイルスでなくなっているとしたら、ニューヨークに住んでいる人は、最低でも一人か二人の知人や友人をコロナウイルスで失っていることになります。トランプ大統領が最初に感染が広がった武漢のある中国に、厳しい眼差しを投げかけるのも当然かもしれません。ニューヨークの人々は、トランプ大統領の震怒に共感を抱いているに違いありません。
 
 ちなみにロックダウンしなかったスウェーデンは、人口100万人当たりの死者数は560人程度ですが、首都ストックホルムは2500人程度です。ロックダウンしたにも関わらず、ニューヨークの死亡者数は突出しています。
 
 ニューズウィークの記事に、コロナウイルスで亡くなった人種の統計が掲載されていました。
 
新型コロナウイルスの人種格差は、思っている以上に大きかった
 
というタイトルの記事で、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が発表したデータを元にブルッキングス研究所がまとめたものです。2020年6月6日までの統計です。
 
 年代別のグラフで、白人、黒人、ヒスパニック/ラテンで分類しています。ここでは10万人あたりの黒人の死亡率が飛び抜けていることが示されています。特に高齢化するほど、死者の数が増大しています。つまりニューヨークでは高齢の黒人の死亡者数が高く、ヒスパニック/ラテン系の人たちがそれに次ぎます。この傾向はイギリスでも確認されています。イギリスでも、白人以外の人種の人口比率14.5%と低いにもかかわらず、感染者数の34%は白人以外の人たちで占められているのです。
 
 この記事の最後に
 
医療格差によってマイノリティの人々が毎日、命を失っている。
肌の色ゆえに、健康に生活を送ることができず、早く亡くなってしまう
 
と書かれていますが、黒人の死亡率が高いのは、本当に医療格差が原因でしょうか。この言説にはまったくエビデンスがありません。それを言うのであれば、死亡した人の収入格差も調べてから言うべきでしょう。コロナウイルスは現在の医療では重症化した患者を死亡させない治療は難しく、重症化の原因を「医療格差」に求めるのはあまりに短絡的です。素人にはわかりやすい薄っぺらな結論ではないでしょうか。
 
 黒人の死亡率が高い原因が、ネアンデルタール人の遺伝子にあると言えば、飛躍しすぎでしょうか。黒人にはネアンデルタール人の遺伝子がほんどありません。白人はネアンデルタール人の遺伝子を持っています。ヒスパニック/ラテン系の人々は、簡単に言うとラテンアメリカ全域を指します。概ね、北米以外の中南米出身の人々です。彼らはスペイン系の白人、インディオ、そして奴隷として連れてこられた黒人です。数百年の間に混血していますから、ヒスパニック/ラテン系の人々の多くは黒人の血を受け継いでいます。ニューヨークのラティーノは、プエルトリコやドミニカなどの西インド諸島出身の人が少なくなく、彼らはメキシコ系のラティーノよりも黒人との混血の比率は高いでしょう。
 
 白人と、もともとアジア人であるインディオは、ネアンデルタール人の遺伝子を持っていますが、アフリカ系の黒人にはネアンデルタール人の遺伝子はほどんどありません。混血することで、ネアンデルタール人特有の遺伝子が失われてしまう可能性はあるでしょう。
 
 ほとんどを黒人が占めるアフリカでは、コロナウイルスは感染爆発していません。人口の多いナリジェリアでも、死亡者数は2020年8月の時点でも千人を超えていません。コロナウイルスもインフルエンザウイルスのように、季節性を持ち、寒い地方で感染しやすい傾向があるのかもしれません。南半球にあるオーストラリアやニュージーランドの死亡者数が少ないのも、感染対策が行き届いていただけでなく、地理的な要因があった可能性はあるでしょう。
 
 ネアンデルタール人の遺伝子を持っているはずの西ヨーロッパの国々は多くの死亡者を生み出しました。これらも気温が影響している可能性があります。
 
 しかし寒い白人国家であるロシアでは感染者数も死亡者数も人口比にすると、極めて小さなものでした。2020年8月の時点での死亡者数は15,685人です。けっこう多い死亡者数です。しかし2020年8月の人口100万人当たりの死亡数を数えると
 
ロシア  108人
 
となります。感染爆発した西ヨーロッパ諸国と比較すると、ロシアの死亡者数はかなり少なめです。スラブ系の白人はコロナウイルスに強いのでしょうか。西ヨーロッパ諸国の100万人当たりの死亡数は次のようになります。
 
イギリス 626人
フランス 453人
イタリア 589人
スペイン 622人
 
 ネアンデルタール人の近縁種であるデニソワ人は化石が少なく、あまり詳しいことはわかっていませんが、最初に発見されたのは、ロシア・アルタイ地方のデニソワ洞窟でした。そこから名前がつけられたのです。デニソワ洞窟はロシア、中国、モンゴルの国境に近い地域にあり、同じ白人でもロシア系の人々は、デニソワ人特有の遺伝子を強く受け継いでいる可能性はあります。そのため、寒冷地方であるも関わらず、ロシア人はコロナウイルスの影響を受けにくかったのかもしれません。
 
 現時点でコロナウイルスでの死亡者の傾向をまとめてみましょう。
 
・高齢者が多い
・寒い地域が多い
・黒人が多い
・白人は少なく、アジア人はさらに少ない
 
 死亡者に病歴のある高齢者が多く、寒い冬に流行するのは、季節性インフルエンザと共通しますが、人種格差はインフルエンザでは取りざたされませんでした。季節性インフルエンザでも人種格差はあったかもしれませんが、注目されていませんでした。しかもニューヨークでは30代40代の働き盛りの人で、黒人、ヒスパニック/ラテン系ともに白人に比べると6倍以上の死亡率を見せています。
 
 ニューヨークの黒人系の死亡率が高い理由にこそ、コロナウイルスが感染爆発した理由があるのではないでしょうか。その辺りを探る研究に期待したいところです。
 


posted by 上高地 仁 at 17:58| Comment(0) | コロナとネアンデルタール人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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